連載は続く~ SF 掌編『ここ数日、たしかに、寒い』編


 ネット商売モデルといっても様々で・・・などとぼやいているようでは、そのあなた、たいしたことないから、その分野のことは考えないでおくに越したことはないよ。人生をほかのことで豊かにできる、きっと。
 でも、だ。ネットにつながる人数は既に膨大量の領域だ。一つたったの1円の儲けができるような売りさばきだって、億単位の儲けも夢じゃない。
 そういう面を持つ。
 だから今では、驚くほどの裕福な層がその分野でも数えるほど生じた。
 数えるほどだから、根気よく数えるならば、だれそれたち、というくらいのところまでは追える。
 そうはいっても、追いまわされることを好まない連中も結構いる。そのうちの何人かは実は仲間になれた。なかなか疑心暗鬼を生みやすい富裕層の中で、どういうわけか意気投合した。
 連中は体力に自信があった。
 更に、それを試す意欲も人一倍だった。
 そんなもので前人未踏の山々をめざして、蓄えて使い切れない財産の幾分かをそこへつぎ込んでいた。そういう日々を送っていた。目立たなかった。
 高い山は危ない。寒いし、険(けわ)しい。
 連中、ここからは"やつら"、としたいが、何を思ったか最初にしたことは衛星を打ち上げることだった。とてつもない富裕には違いないけれど、衛星を打ち上げて、しかもそれを運用するとなるとべらぼうな資金が要る。もちろん、そこは商売人、上手く運転できるようになった時にはしっかり商売利用するつもりだ。倍以上になって返ってくる計算。目論見だから失敗もありなはずだけど。
 その衛星の当面の使い道については後(のち)ほど。
 次に、やつらが準備したことは、防寒・防水・透湿性能を極限の条件下でも保てる衣類をオリジナルに作ることだった。
 市販品にもそれぞれの性能に長けたものはいくらでも出回っている。でも、更に極限をめざしたかった。F1やインディカーレースの世界が万全の装備を目指している。だったら登山とか冒険においてもそこらの発想を試してみたくなる。とにかく冒険はする。でも確実に無事に帰れることも冒険体験ならではの醍醐味のはずだ。
 遠赤外線の知見を応用させたかった。
 遠赤外線協会がネット発信している資料から、ヒト表皮の200μm辺りで吸収されてしまい、血流によって熱が身体に伝わる。ならば、その電磁波帯を使って、エネルギー源を持ち運ぶ必要なく、身体を温められそうだ、となる。でも・・・山登りしていて汗が沢山出て、それで熱は充分だ。なのに、更に、ということになりかねない・・・。
 しかし、万が一、突如の気象の悪化によって立ち往生して、何日も絶壁に留め置かれるようなことになったらば・・・。その時こそものを言うはずだ。
 普段着と万が一の時の装備、ということで着替える?大変な状況で着替えられるだろうか?やつらはここで、ちょっとばかり思案することになった。
 初めから着ていても熱が邪魔にならない重ね着を工夫することにした。
 編みの目テクノロジーというか、防水と透湿を同時に成り立たせることを難なくやってのける時代だ。それと遠赤効果を使って、万が一でも凍傷・低温症をさける。
 乾電池電源を用いて衣類の暖房も簡単だ。ただし乾電池次第。
 とりあえず何も余分なことをせずに、長時間持ちこたえる装備が必用だ。
 そして持ちこたえていても気象がこちらの都合に合わせてくれるわけではない。
 救助信号を出せるかどうか。衛星経由が使えても、肝心の電源が切れてしまっては何もできない。
 富裕層のやつらは、エネルギー供給用衛星の常時運転に共同で出資して実際に飛ばした。
 JAXAのレーザー無線エネルギー伝送技術のページを参照してもらえばざっとどういう具合に実現できるかがわかってもらえるかも。やつらは、もっと資金を次ぎこんで、高精度のを運転している。携帯GPSも使っている。
 富裕じゃない連中だってこの便利なツールを使いこなせる。保険だ。
 保険をかける。万が一の時に使う。その費用は保険から出る。使う頻度に応じて保険料はぐっと違ってくる。そういうタイプの保険。
 でも登山それ自体にのめり込める。そういう保険だ。
 富裕層であるやつらやそれでもって更に富裕になりそうだ。格差は縮まらないな。
 受信装置が背中とか、ヘルメットとか、邪魔にならない部分を覆っている。
 そこへレーザービームが届く。やつらが並んで面を広げる使い方も可能だ。
 味をしめた(富裕な)やつらは今もどこか人知れず、未踏の地を目がけて人生を大いに楽しんでいるに違いない。
 一方で、とことん追及する意欲を失わないサイエンスの担い手たちへ、きめ細かく目配りが欠かせそうにない。