連載は続く~ SF 掌編『古代調べを想起させるサンゴ礁(白化)研究の趨勢』編


いきなりで、それぞれ先入観間での"衝突事故"を生じさせかねないのですが、ちょっと引いたところで受けともていただけるとありがたい。

丸山茂徳ほか著『地球温暖化「CO2犯人説」は世紀の大ウソ』('20 宝島社)中のデビッド・アーチボルド、丸山茂徳共著"国連の報告を鵜呑みにするメディア 地球温暖化の報道は99%がウソ"での一章"サンゴの白化はサンゴが死んだ証拠!?"
この著作およびネット検索で直ぐに出てくる以下の論文など是非参照していただくことで、引く必要もなく、多少落ち着いて、事象を押さえる気になってもらえるかも。

この章では、貧栄養環境のサンゴ礁が、共生によって栄養の循環を得ていることを温暖化論議上の立場の異なる研究とも共通にしていて、ただ海水温上昇ストレスの扱いについて違いを指摘できる。
サンゴ礁は熱帯にも温帯にも、冷水域にもたっぷり分布している。(具体的には以下の論文を参照してください)
特に熱帯域のが海水温上昇には限界の温度に近づけさせ易いと見るのか、それぞれの海水温環境に適応していて、それとの相対的変化でのストレスを負荷と見るのかなど、問題の押さえ方で、事態の見方も変わってくることに、上記の章の記述は気づかせてくれる。
ただこの本で表紙にもなっているグレタ氏ご自身が、テレビ放送で知ったのだけど、自分の発言に関心を持つ時間があるならば、もっと科学者たちの発信に関心を持ってほしい、ようなニュアンスのことをおっしゃっていて、その人脈の"巧み"の面と、率直な素直な面とを素人は感じた次第。


① 10_13.pdf
J-STAGEトップ/日本サンゴ礁学会誌/10 巻 (2008) 1 号
日本サンゴ礁学会誌 第10 巻,13-23(2008)
『造礁サンゴに共生する褐虫藻の分子系統学的研究に関するレビュー(北西太平洋を中心に)』
諏訪僚太・井口 亮 著
"環境変動に直面したサンゴが褐虫藻を替えることによって新しい環境へ適応することや特定の褐虫藻グループを保持するサンゴのみが生存する可能性が指摘され"
"日本を含む北西太平洋のサンゴ群集は,その分布が熱帯から亜熱帯,温帯にまたがる"
"この海域を中心に褐虫藻の分子系統学的研究を概説した例はまだない。"
",クレード(単系統群)レベル,さらに細かいクレード内のサブタイプレベル,コロニー内や種内に見られる褐虫藻遺伝子型の三つに大別して概説する"
"上の結果から,これまで褐虫藻のサブタイプ決定に頻繁に用いられてきた DGGE 解析では,褐虫藻の遺伝子型を詳細に調べるには精度が不十分であるので,クローニング法とシーケンス法の組み合わせで調べることが奨められている"

② 21-4-tanaka.pdf
海の研究(OceanographyinJapan),21(4),101-117,2012
田中泰章 著 『― 総説― 造礁サンゴの栄養塩利用と生態生理学的影響』
"一般的なサンゴ礁海域の栄養塩濃度は,硝酸イオン(NO3-)とアンモニウムイオン(NH4+)がそれぞれ0.1~0.5μmolL-1(以下,μM),リン酸イオン(PO43-)が0.01~0.1μM程度である(Table1)"

②’24_189.pdf
海の研究(Oceanography in Japan),24(6),189-202,2015
─ 2015年度 日本海洋学会 岡田賞受賞記念論文─
田中泰章 著『造礁サンゴによる物質代謝に関する研究 ─サンゴ礁物質循環の視点から─』
"(サンゴ礁の海水)生態系の根幹ともいえる有機物生産の仕組みが明らかにされていない"
"多くの有機物がサンゴ礁から周辺海域に拡散していると考えられ,熱帯・亜熱帯の外洋生態系にとっては,サンゴ礁が一つの重要な有機物供給源として機能している可能性もある。"
"溶存態有機物(Dissolved Organic Matter ; DOM)"
"粒子状有機物(Particulate Organic Matter ; POM)"

③Vol.15 海の砂漠に棲むサンゴの謎 ダイビングならDiver Online.htm
https://diver-online.com/
Vol.15 海の砂漠に棲むサンゴの謎
山崎敦子 著
"透明度の高い、きれいな海。サンゴの棲む海は多くの生き物にとって栄養が摂りにくい砂漠のような環境です。"
"このサンゴの代謝のしくみに感嘆"
"主な栄養塩である窒素の安定同位体比(14Nと15Nの比)の測定"
"サンゴ礁に供給される窒素"
"サンゴ骨格中に含まれる窒素から海水中の硝酸塩の窒素同位体比を推定"
"現在は富栄養化でサンゴが減ってきた海域にこの研究を応用して、栄養塩がいつどこからサンゴ礁に流れ込むようになったのかを調べているところです。"

④待ち受ける新たな関係:サンゴと褐虫藻の共生メカニズムに迫る 沖縄科学技術大学院大学 OIST.htm
沖縄科学技術大学院大学 https://www.oist.jp/ja/
2016-06-23
待ち受ける新たな関係:サンゴと褐虫藻の共生メカニズムに迫る
"褐虫藻がサンゴに取り込 まれた後、最先端技術を駆使した遺伝子分析を複数の異なる時点でおこなった結果、共生開始時に遺伝子発現の変化が認められ、さらにそれが生じるタイミング はサンゴが褐虫藻と最初に接触してから4時間後の時点に限られていることが分かりました"

⑤36_suzuki.pdf
『サンゴの白化現象の機構解明と栄養塩循環の再評価』
静岡大学・創造科学技術大学院・教授 鈴木款 著

⑥0201j.pdf
中野義勝 著『日本の珊瑚礁』 第2章 サンゴ礁の攪乱
"1997年から1998年にかけて見られた「サンゴ礁の白化現象」は、世界的な規模のものとして多くのサンゴ礁研究者によって記録された。"
"この共生藻は「褐虫藻(zooxanthellae)」と呼ばれる、直径が10μm 程の渦鞭毛藻のSymbiodinium 属の仲間で(写真1)、サンゴの内胚葉組織である胃層の細胞内に共生している(Kawaguti 1944;Muscatine 1980)。"

⑦53_234.pdf
『造礁サンゴ、冷水サンゴ、宝石サンゴの骨格の酸素・炭素同位体比の挙動について』

”骨格を形成する
炭酸カルシウムの結晶形” サンゴの種類 下位分類 褐虫藻の有無
        あられ石   イシサンゴ類
                   造礁サンゴ 有
                   冷水サンゴ 無
 高マグネシウム方解石    宝石サンゴ      無

造礁サンゴの場合、酸素同位体比は一般に-0.13~-0.22‰ °C-1 の温度依存性を示す。
一方、今回の試料について、中心部から周辺部に掛けての酸素同位体比の増加幅は、
冷水サンゴのセンスガイDSCog-1~4 で最大4‰、
宝石サンゴの仲間であるシロサンゴDPC-01 と深海サンゴDPC-727 でそれぞれ約2‰および3‰であって、
これらの大きな変化は、試料の採取水深を考慮すると、
生息期間中の水温や塩分の変化に起因するとは考えにくい。
骨格に見いだされた大きな酸素同位体比変化は、
骨格の形成速度の変化など、反応速度論的な効果によって生じている可能性が示唆される。

⑧111_571.pdf
地質学雑誌 第111巻 第10号 571-580ページ 2005年10月
狩野彰宏著『総説 : 深海サンゴ礁:その普遍的分布と地質学的意義』
"光が透過しない水深から、サンゴが作る構造物を最初に記載したのは、Neuman et al.(1977)である。"
"油田開発を目的とした広域的地震探査断面""その公表を契機"
"1990年代からヨーロッパ諸国を中心として、科学的海洋調査が活発になる。"
"無人潜水艇によるビデオ映像はサンゴ礁表面での生物群集"
"ビストンコアやドレッジサンプルは海底堆積物についての情報"
"極圏ノルウェーからモロッコにいたる北東大西洋の水深 1,500m に達する陸棚縁辺や海山上で,サンゴを含む底生生物群集が,幅数km,高さ350m に及ぶマウンド状の地形を作っている(Kenyon et al., 2003; Freiwald et al., 2004)."
"これまでの地質学的常識では,含サンゴ石灰岩は暖かな浅海を示相するものとされてきたが,この単純な古環境的解釈は見直さざるを得ない."


列島および周辺地域の古代資料の年代を明確に決定付けられることが、なによりも大事と素人は感じている今日この頃なのですが、サンゴ礁をめぐるだけでも、相当な集中力が集団的に発揮される研究者世界がある一方で、考古学を大局的に整理紹介してくれていた放送大学の考古学においても、手法開拓は遅々として進まずの辺りをほんのり感じさせる現段階の紹介にもなっていた気がした。
ただ、理系部門においても、先駆的な冒険にも近い探索の成果をそれとして受け止められにくい環境は進行形状態としてはいつものことのようで、たまたま石油掘削のための調査のデータが研究者環境の目に止まって、"いざ"となったようだったりで、研究の資源が或る関心の下、投入されるという契機も、それを見逃さない関心の網やアンテナの作動も必須と素人は見た。