連載は続く~ SF 掌編『空想そこはパラダイスじゃなかった』編


 保守層を取り込むつもりならば・・ちょっとばかり優越感をくすぐる必要あり、だから。
 そういうことで、"結果生じてきた二酸化炭素"サイエンス知見を逆手にとって、炭素さえ出さなければ地球温暖化に貢献するよ、の大キャンペーンプロジェクトは始まったそうな。
 結果生じる二酸化炭素を減らしたところで、その原因ではないのがわかっている欧州知賢層にとっては痛くもかゆくもないので依頼主へはオーケー、ないしグッドドクターのマーフィー(の日本語訳)よろしく、おっ、けぇー!したらしい。
 ちょっとやりすぎじゃないの?と他人事として観察していた諸氏がいぶかったのがZ世代とかおだてつつ一部の若者層を取り込もうとしたことだ。それらの人生を多少は左右するだろうから。
 ちなみに中間を自意識にしがちな人々相手なら、過激なのって困るよね、だったら、これ、とか持ち出せば大抵コロッとしてくれるらしいよ。
 革新肌タイプ相手ならもっと簡単で二酸化炭素を削減するってアヴァンギャルドだろ?ないしシュールじゃん?とか投げかける。するともぉ心の底では大乗り気になっているからあとはほんの一押しとのこと。

 

 ところで実は他人事にしていた人々の一部では密かに事が計画実行されつつあったらしい。
 聞くところによれば、
 列島のある県を圏内としてその圏域全体を交通システム特区として国の承認の下、地場産業を独自に育ててしまおうというものだった。
 現状、高速化、高効率化が求められるタイプの経済活動システムに誘い勝ちのところを、最高速度制限を圏内にもうけ、物流そのほか全ての交通はその県に入った途端にその規制下におかれることになる。
 違反はストレートに法律上の違反となり県の定める基準でペナルティを課すことができる。
 だから通過するだけの車両であっても特設の高速道、高速コース以外ではその罰則の対象となってしまう。つまり速度制限をよぎなくされる。
 その結果として計画されたのが、低速安全運転車の量産だった。
 ヒトにとっての根源的欲求の一つにモビリティあり、との知見に基づき、県民の足をリーズナブルな価格とともに100%普及を目指した。県民がそれを持って、使い始めればメンテナンス需要も膨大となるし、買い替え需要も見込める。乗りつぶしての場合もあれば、支払い手段の保有量次第でただ興味から買い換えるということも見込めた。
 とにかくスピードに応じるように破壊度がひどいことになるから、徹底した速度制限のもと低速車両販売を加速させた。
 県民の中でも適度のトルクもありの車なので山地の人々も超便利と使いまくるようになった。
 低速で小型で多少きゃしゃな車が安心して走り回れるようになる。
 たまたま歴史的遺物にもめぐまれた土地柄だったので、歴史観光用にも使われだして、県内でも各地からそれら観光地、遺跡の穴場へと押し寄せるようになった。1人か2人乗り程度の小型車だし、低速運行ということで、実に暢気な交通ラッシュで済ませられた。小型だから、列島の田舎道でも工夫して安全にすり抜けることができた。
 混んだりしない交通網ということから、物流も円滑に運び、県境の物流拠点から県内各地へとスムーズな輸送が日々こなされていた。
 救急の時、どうするの?は素朴な疑問、直ぐ出てきそうな疑問だ。
 円滑に動く交通網という現状を達成後は低速(最大30km/h)の救急車でも安全確実迅速に業務をこなすことができた。低価格を達成したので、予算の範囲でより多くの救急車出動拠点を配置できたことも幸いしている。
 できれば、各地の観光地を低速自動車が安全に行けるような交通路連携を他県との間に結びたいのだが、現状、通常道路が交錯してしまう性質から計画遂行は棚上げ状態だ。
 燃料の方は、ガソリン主、電気従の割合で稼動している。
 いまや燃費の良いガソリン車は、1リットル積めば数十キロメートルは走る。それも四輪車だ。ということで、空気汚染もかなり解消してしまっている。
 既存の全国展開チェーン店の物流はという疑問も出てきそうだ。
 それも全国展開チェーンの本部はそれなりの資本だから、低速運搬車を買ってもらった。しかも小型に限られるから、県境拠点からの便は以前よりは多くなる。それでも安全確実迅速化ができてしまった。
 県外からの仕入れも同様に県外用の車両を必要とした分経費は嵩(かさ)むけれど、同様のやり方で円滑経営に貢献してしまった。
 やるなら関連域すべてを対象に、という知見を得て、各県でその模索がはじまるかもの機運が生じていた。
 車作りに強い若者達は早速、お金集めして小さな車製作修理工場作りに励みだしていたけれど、各県がそれを使いたくなる条件を受け入れるようになるかは今のところはっきりしていない。
 そこで、その低速小型車がレースできるサーキットをお金集めの上手な若者達がなんとかかんとかして準備してしまうような方向でその場を凌いだ。
 ところが、それが人気を呼んで、1960年代前半の1500ccクラスのF1っぽいサーキットのレース風景の再現となってしまった。とはいえ、最高速30km/hだから、目の前を空気を切り裂いて走り抜けるというよりは、オッすと女性ドライバー、男性ドライバーたちが余裕で観衆へ向けて手を振りながら直線を走りぬ・け・るタイプのレース模様だったりしている。
 ノミ行為に若者達が誘われないように潜入捜査担当の公務の人々の密かな活躍のことはいうまでもない。厳しい。
 家族連れでの観光はだから妻も一台、夫も一台で、二人の子持ちならそれぞれに。三人の子持ちの場合は、婆さんか爺さんを呼んでもう一台運転してもらうことになる。
 沢山の子持ち一家の場合、大抵は馴染みの友一家と共にで楽しむことになる。
 ついでに言うと、公共交通網についてもかなり工夫されている。
 通勤通学に関わる人の移動量を長期にわたって計算してあるので、大量の引越しが無ければの予想交通量から、バス適地、鉄道適地を定めて、業者との連携から、経営上無理のない敷設をやり直した。
 近距離買物は自前の小型低速車で充分だ。
 ちょっと遠距離であっても利用交通網次第では自前で足りる。
 この県だけの出来事ということで、そのこと自体が観光の目玉の一つになってしまって、外からの観光客を呼ぶようになってもいる。
 その場合、レンタル小型低速自動車あり、公共交通網ありで、レンタル自転車、レンタル低速バイクもあるから、便利すぎてどれにしようと迷ってしまうらしい。
 県外通勤圏で自動車通勤の人々はどうしてるの?もごもっともな質問だ。
 これらの人々は危険を犯して小型低速自動車通勤している。
 県外となると、原付並のスピード制限での運転となるため、つい他の車両はヨコの隙をすりぬけようとする。その時だけはとにかく危ないと感じさせる。でも、低速運行を心がけている今時の物流部門の車両は一緒に走って食えるご時勢なので、意外に安全安心運転できているそうだ。
 昔から自家用車で遠くに行きたいと、公共交通の経営担い手諸氏にとっては困ったもんだいタイプの諸氏も大勢いらっしゃる。
 それらの人々には、県境でのレンタカー利用の利便性を高めることで対応しているそうだ。
 海と空の湊・港もあって・・と話が尽きそうにないので、今回は、この辺で失礼。