連載は続く~ SF掌編『SF 某チームの改良は始まっていた』編


 8月下旬の試合では多重パス展開に、方向といいスピード感といいタイミングといい見事なおとりとなって突っ込んでくれたベーレザチームの23番ウジイエ選手の動態加担ゆえに18番イワサキ選手のゴール前をよぎる地べたを這うようなパスが功を奏して9番ウエキ選手のゴール!が完成している。
 co-WEDo地区のRe秩父(ちちふ)チームは、実は某地区がリーグでの優勝を目指してSWUM(Supporting Women's Upward Mobility)リーグで活躍しているチームの秘訣を極秘裏に調査するエージェントたちが構成する女子サッカーチームだった。
 若手の7番Ohソーネ選手や10番のYoッシャァ選手が実はエリートエージェントとしてその秘密技の最後のところをあばき他チームへ提供できるデータにする際の功績を残してくれた。
 そこで早速情報を得た似TELチームは改造に取り掛かる。
 ベーレザチームのウジイエ選手が怪我して当分は出られないというし、ウエキ選手だって移籍して、ゴール前の動態を作る方がその力量をつぎ込んで現状の他チームがどうころぼうとも手が出ない試合運びを作ろうにも肝心のゴール前の演出に空白ができた状態で、ベーレザチームそのものが攻撃的システムを維持できるのだろうか?そういった噂が一方には舞っていた。
 肝心の似TELチームはそういった他所(よそ(のリーグのこと))のことなど知らんぷりだ。
 自分のチームさえ勝ち続ければがっぽり稼げるというものだ。
 そこで得た情報を担当コーチ陣がたっぷり時間をかけて整理して、若手選手たちに身体動作として伝わりやすい言葉にして、トレーニングを開始した。
 むちゃくちゃ早いわけではない他チームの攻撃時の走りスピードに対向できる以上にわずか抜きされるくらいの極く短距離のダッシュ力を高められるか試すことになった。
 実は、そう心配されるくらい、若干遅い若手たちだったのだ。
 パスの精度が相対的には良好で、だけど多少の誤差も含みがちな体力だけは目を見張らせる選手が集まった海外のチーム相手には、パス精度いまいちの代表チームだとまったく歯が立たないことは実証されている。遊ばれてしまう。
 けれども、新世代のチーム構成では、パスの速さと連携の変幻自在さゆえに、精度を保てるのは止まって待ってやりとりするタイプのパスが信条のチーム相手の場合、なんなくすり抜けて、自分たちの組み立てで相手チームの脆(もろ)さを引き出しやすくして、逆に相手チームにとっては、歯が立たないチームとなってしまうことも明確になってきていた。
 短距離ダッシュ力もサッカーゲームにとってはとてつもない効果をもたらす。
 ヒトとヒトとが競り合う場ではそういうことが期待できる。
 パススピードの変幻自在さは、それを更に上回った効果を期待できる。
 ということは、50mドリブルして、ないしパスを受けるため全力疾走してもゼイゼイしないくらいの走力の持ち主も必要だし、10m同じことができるだけで、複数人数が絡んだ複雑技で相手を抜き切れる。
 もう一つ、2、3mのダッシュ力がものすごくできると、並走(へいそう)する相手チームのだれかを抜きされる。そこからのパス展開を、あるいはシュート展開を可能にしてしまう。
 万が一、残ったごく少数のDF位置の選手のところへ、複数の相手チーム選手が攻め込めるような状況が突発的に生じたときにも、俊足でしかもサッカー技が並ではない選手が一人か二人居てくれれば急場は凌げる可能性大となる(この場合は、10m走ができれば50m走での力量がほしいところ)。
 似TELチームはだから若手抜擢中の槌方選手にまず目をつけた。
 ゴール前でのインチキ突っ込みプレーもこなしてもらう必要がある芸達者さは、ある程度身についている。けれどもダッシュ力には物足りなさを残す。年齢的には、負荷に耐えて力量アップにつなげられる可能性を見込める。とにかく身体能力の方はより若いころから過負荷にならない管理の下で負荷に応じた体力を育ててきたクラブ養成ならではの段階を経ている。要するに骨や筋肉系は、負荷に耐えてしかも力を蓄える方向で育っていることを前提にできる。
 ある程度自分のゴールまでのパフォーマンスのスタイルを形成しかけている矢場元選手の場合は、その志向を活かせるようにするために慌(あわ)てず、そして遠慮しないで圧をかけてくる相手チームの選手たちの圧に対する体の預け方、交わし方の工夫をコーチがヒントを発信しつつ自らの身のこなしとして実践的に改良の試行をこなせるよう工夫させた。
 矢場元選手はゴール前でシュートを狙うにしろ、同じチームの無事名選手と志向がバッティングしかねない位置を求めがちにしている。つまり自分がパスを出すことによってだれかがシュートないしシュートへとつなげられるパスの出し手と連携することをイメージしてのプレーを構成しがちだ。
 だから二人が近くて同じ攻撃のだれかを求めてしまう場合は、スピードやタイミング的にわずか遅れを生じさせやすくしてしまう。
 そこでベーレザチーム情報を参考にして、矢場元選手もより攻撃の方で活躍する改造が試みられる。
 状況判断次第では、裏方に回ることも是だ。そこらはゲーム勘次第で、追々、その力量をコーチ陣が読めるようになるから、事態の流れに任せておける。
 こうなると、お膳立て役とシュート役の両方を期待される無事名選手については、前者を6割から7割、後者は自ずから3割から4割ということでのプレーをコーチ陣からは期待されることになる。もちろん、こちらも状況判断次第で、それもコーチ陣からの評価にさらされる。
 二人の攻めの演出場面を作るように、そして第三の攻撃をいつでも秘めさせながらの攻撃的チーム構成が可能になる(無事名選手が持ち前のボールコントロールでスピードにこだわらないゴール上隅の角の隙間狙いシュート打ちに慣れてくれれば、どんな熟練GK女子であっても狙いどころの焦点を絞り込みにくくしてそれだけでも他の選手のゴールを呼び込みやすくしてしまう)が、そのためには、いざ守備、という時に、体力的にはしんどいはずだが、よりMF的、DF的位置でパス構成に関わる若手選手たちが、鍛え直したダッシュ力を発揮してくれるようにならないと、折角の攻撃力も自らの気落ちを誘いかねない失点の大安売りのミニ版くらいのことは起こしてがちにしてしまう。それを挽回できる得点力を持っていても気持ちの上では、疲労を招きやすくしてしまう。そこをダッシュ力で切り返す。
 10番の木の上選手や18番の石崎選手は相対的に攻撃位置のMFやDF位置を保ってもらいたい。
 5番の紫之(むらさきの)選手や24番の菓子村選手は攻撃に参加しつつ50mダッシュ力を使ってDF位置での攻防に即関われるようにしてもらいたい。
 そうなるとゲーム勘やねちっこさで対応力抜群の街待(まちまつ)選手の力量と触発し合って、かなりの防御が可能になる。
 GKの田外桃ノ木(たのそともものき)選手は代表では試合に出てもらって、戻ってきたときにもゲーム勘を即フル回転できるようにしておいてもらいたい。心身の心面の強さは太鼓判だから、野球のキャッチャーの凄いやつらのように相手チームのストライカーのくせくらいは詳細にデータとして記憶してそれに応じたGK自らの動きとしての仕掛けと相手の誘われやすい動きなどを試合の中で更にデータ化して鉄壁化できる。
 それを見て身体的反応性とそれを無茶の方ではなく躊躇しない判断力とを兼ね備えた若手の和香(なごやか)ナ選手が、更にパワーアップした後継者というよりは、ハードなGKを機会ごとに交代して担える相棒として、サッカー総合技も含めたコーチの加担も多分必要になる。
 ベテラン選手たちはゲーム勘、状況を読む力はあるのだが、それに(若手選手たちが既に構想して作りつつある状況に加担する)応えきるパスの精度(トラップ精度の確率も含め)は足りなすぎる(他者の動作、変化、に応じる動体視力の反応性のくせも若者たち系に親しむ必要がある)。それでも無理しないで正確にパス出しできる距離とか、瞬間判断に慣れれば、以外と元々持っている力量の範囲で応じられるもので、そこらの関係性に慣れるトレーニングをたっぷりこなせる時間的余裕をコーチ陣が持てるようにすることも、欠かせそうにない。ホームランシュートを打つくらいなら、相手チームが嫌がる位置へのパスの方を選ぶべし、(ないし相手チームの反則を誘うからだ寄せの巧みとか(圧行使は巧みなのだから)自分のボールを奪わせて相手チームが切羽詰まったパス出ししかないと思わせるような状況へ誘うとか)だ。
 相手ボールを奪いに行く集中度合いは目を見張るものがある各選手なのだが、ボールを奪い合えそうな場面で、ふと(けがを避けるというタイプではなく)ソフトな動作で瞬間相手が隙ありで奪いやすくするボール扱い上手ならではのソフトな隙を、状況、場面に応じて峻別できる判断力をゲームの中で養ってもらえるように促せることもコーチ陣のヒント発信にかかってきそうだ。

 もう少しデータが欲しくなった。

 co-WEDo地区のRe秩父(ちちふ)チームのエリートエージェント選手たちは未だ全開の状態でデータ収集とその解析作業に当たってくれているだろうか。