連載は続く~SF掌編『♬冬の散歩道♩、なんてね』編



私:どうやら探偵氏は普段、だれにも気付かれずに、といっても、探偵社のスタッフは100%承知してるんだけれど、介護施設で何かしてるらしい。
君:スタッフとして?だと驚き、よ。
私:いや、違うね。入居してる立場みたいだよ。
君:そう、なの・・。
私:部屋の近所には何人か専門系のスタッフ(つまりかなりの老齢なわけだけど)も住んでいる。
君:ラボみたいになってる?
私:実質。でも見た目わからない。老人たちの割に活発。それぞれ興味に夢中。
君:バレそう。
私:専門家なら、ひょっとしたら見抜くかも。探偵氏そのものは、外出とか頻繁なので、手がかからないってことで非常に歓迎されている。稼げるし、手がかからないんだから、ね。
君:そういうお客さんばかりだと施設のスタッフ不足も問題になりにくそう。いいわね。
私:世の中、探偵ばかりでも困るし・・・、たまたまその施設に限って、ということにしておこう。で、専門家の一人がNHKでやってた人体のデータに関心を持ってしまった。TNF-αのこと。関節リウマチの原因の一つとされるサイトカイン。免疫は免疫抑制剤以来、本当に入り組んだ仕組みで医療として使うにしても汎用では体を痛めてしまう。対症療法の弱点がもろ表に出やすい。TNF-αも例にもれずだ。免疫の免疫たるのがノーベル賞とかとも絡む知見で、特異性ゆえの有効性。つまり汎用ではない特定の目標めがけて作用してくれるからインフルエンザが期間限定で病になって治ったりする。他の臓器に作用して困らせる、ということはまずない。そこらに興味をもった生理学にも関心を持つ老人スタッフが、可能性と制約をもっと絞り込んでみようと意気込んだ。そしたらせき込んで、体調崩して、逆に一週間ほど休んでしまったそうだ。ドラマがちっとも進まなかったそうだ、よ。
君:なによぉ!それって手抜き、のことでしょ。ドラマ作るの億劫で、その口実ぅ!だめ、よぉ、そんなの。ズルい。話にしなきゃぁ・・。
私:だから、というわけじゃないけれど、糖尿病っぽい人々の多臓器不全状態が普通に見出せるってことで、それを放送された人体では腎臓が多臓器間のネットワークの要役になっていると説明されてた。一般の人々の長年の疑問に一応は答えてくれている。そういう専門家諸氏の研究が進んでいる、ってことのよう。京大病院の柳田素子医師は腎臓の専門家でその現世界基準発想から急性の腎臓の炎症が生じた場合、とかく多薬摂取しているお年寄りの薬を一時的に中止することが肝心のようなことを指摘されていた。番組でもそういう合意が世界基準にはなっているそうだ。老人介護施設まで普及するのにどれくらいかかるのか、そこらは介護保険法下なのだから厚生労働省の公務員系の研究の現段階と普及活動の元気度次第かも、と探偵と研究スタッフは踏んで、傍観しているんだ。ストーリーの上ではね。
君:なによ!!じゃ、またもや何もしない、話がすすまない、わけぇ!?あなた、話作る気、あるの。どうなの、よ。
私:寒くって、さ。それより、キミだって、追々無関係とは言えなくなるんだぜ、っていう話どぉ?
君:・・なに・・(ぶつぶつぶつ・・)。
私:お年寄りは排泄関係に苦労しがちになる。多くが。
君:おしめ?
私:今話そうとしているのは違う。出にくくなるとかの話。頻、ひん、ね。そういう場合もあるにはあるけれど、それもまた単調ではなくて、色々な場合があるから、決めつけも危ない、でもここでは、出るのにくくなる方の話。便秘、ってやつ。心置きなく出せる、ってことがなにより快便の基本条件。だから給料生活者の多くは、つい踏ん張る生活からは抜けられない。その延長で退職して、生活習慣の惰性からうまく切り替えられれば、快便、快尿生活、を満喫しているわけだけど、実際となると、どうだろうね。排泄、は直観的にも個々の出来事、個々の事情に密接なことに気付きやすい。わがままなやつらの要求も本当は個々において、性別を問わずの圧だから、相手の事情なんて本当は気にかけていられないとか自分の都合の線で動いているはずなんだけど、実際生活の上では相手のことを無理しておもんぱかってそれで自分本位のわがままなやつらを満足させることになる、ということでそれ自体がストレス源にもなってる。そうやって分かった風をよそおいつつ疲れる人生とごいっしょしてしまう。だから観念肥大系に妙な偏りを抱かせてそこから遠ざかるようなことも充分にありえてしまう。わがままなやつらを制御する観念を育てることには全然なっていないけれど、形上似た感じでことばだけ一人歩きさせてしまう。後進たちへわかった風なことを言い始める。排泄はハッキリ個々の事情と意識されやすいので、他人がとやかくそのことに介在することはない、はずなのだけど、介護には排泄のお世話、という項目があるので施設のお年寄り諸氏は煩い介護職の排泄に関する指示と上手に付き合わないと便秘とかになりがちにする。探偵は外出頻繁なのでいいけれど、住み着いてる専門家スタッフの老人たちはそうもいかない。で、煩いとか反感を持たれるとそれなりに、指示がより強くなって不自由になり勝ちだから、そこは言うことをできるだけ聞くようにする。すると行きたいものも我慢して、それがちょっと癖になって、便秘になる。トイレにゆっくり入っていたら、逆に心配されて声かけられて出かかった糞(くそ)が引っ込んでしまうなんていう笑うに笑えない体験は数えきれない。
君:私もそうなる、っていう、話、なの。やけにうんちにこだわってそう。
私:でもね、排せつとか食べるとか、ぐっと個人の事情に沿うことで快適さと直結することは、もっともっと自由とか、本当に黒子になってプライバシーについても口の堅い地味で活発な介護スタッフが育っていつでも快適な排泄を促してもらいた、とお年寄り諸氏は思っていると思うよ。わがままなやつらを充たすのに相手のことを忖度することがどうしても求められる行為以前と行為が伴うのとは違って、本当に個々で満たせるのが排泄だし、介護スタッフが必要な体の状態のお年寄り諸氏だってわがままなやつらをめぐる相手のような忖度は基本的には不要なのだから、思い切って快適な排泄を、極端には楽しんでいいわけさ。今は仕事で忙しい膨大な元気な諸氏もきっといつかはなんらか苦労される。でもその時に介護現場発信のこの程度のアイデアをことばに持ってくれれば、介護で育ったスタッフたちを環境にして快適な生活、快適排泄を愉しんでいるんじゃないか、な。
君:実感、わかないけれど、そうだったら、いいわ、ね。でも、なんか、話、逸れてない、かしら。探偵が事件解決する話、とかまるきりそうなってないような。
私:更に・・・女だったらこの仕事、男だったらこの仕事、っていう決めつけがグラデーションの中で定義が希薄になっているきょうこのごろ、そこで老人であるわたくしとしては・・・。
君:いきなり力んで、大丈夫、たとえだけど血管切れない・・・。
私:大丈夫、相手がことばも出ないほどドキっとする発音には血圧が200越え、って安保氏は紹介してた、よ。相手のことばが出てくるくらいなら大した圧にはなってない。キミのことも含めて女性が活発、元気に活躍中な世の中なわけ。だけど、という話。これまでの長年月をかけて、性役割であるかのように仕事の具体性として表現された役割を育ててきたのはヒトの知恵に当たる。性役割分担の無理を認識して、だからといってその仕事内容を否定してしまうと長年月の培ってきた内実を捨てるような愚になってしまう。つまり端折って、性役割分担を止めたとしても役割として仕事の内容をだれかれと引き継げて、それなりに応用できることは、それまでの熟練の継承と同等、ということ。女性たちが間を巧みに取り持って事態を上手に取り繕ったとか、事態の進展を促したとかを事例にできるならば、その活躍の具体的な役割の内容としての仕事についてしっかり学んでおくこと、学んだことの急所と派生とを整理できてそれらを継承できることが要る。それこそ通常忙しい人たちにとって貴重な時間の節約と便利な継承内容を実際的時間を費やすことで学べてしまうんだ。その場合はオンナだからオトコだから、という入り口にしない運用が合意されてると都合がいい。
君:その話もうれしい話、よ。でも探偵の話とどう結びつくの。
私:そしてサケ、魚のサケとも関わる話へと展開するわけ。
君:探偵氏はサケのおかずが好き、とか。ふふっ。
私:そうじゃない。血液の循環、張り巡らされた毛細血管を通じた個々人の中での栄養素・諸成分の循環を想像してほしい。サケは河筋を通って物質循環に貢献している。サケだけで完結しない。クマが食ったり、鳥が食ったりして、川が流れて、循環らしくなる。サケだけじゃない。多くの食性様々な生き物がたまたま居てけれどたまたまがいつのまにか必要不可欠の一部となっていて膨大な自然の中での循環(厳密にはヒトの体内と体外もまとめて含んで)が動いている。そういう全体の目を海外発の超有名なことばでも言い表されたことがあった。1970年代だったか・・。つまり、人種とか民族とかそういう観念整理の利便から使う属性の類を用いて全体の中から取り除くような全体主義に反する思想で19、20世紀に乱暴狼藉が生じている。全体はあくまでも全体だから全体を包んで、排せつはもろいけれど個々の事情に密接な行為で他人がとやかく介在してはまずい。個々を尊重する事態認識の試金石になる。そういう全体感に気付けないと、一部の不満で他者に仕返ししてやれの思い込みにブレーキを効かせにくくする。もちろん、法治として余程工夫された事態の運びを認めておいての話。それ以上に個々を尊重し合うことはお互い様だし、排せつのお互い様は本当に個々の事情に寄り添ったいつもがささやかな日常が成り立ってこそ、という実質が証拠になるから、或いは、恋愛もとかくお互いさまの恋愛の場合なら、排せつと同じで傍からとかやくが出たらそれこそ、個々を尊重し合う基本の侵害というか些細だけど邪魔しているようなもので、ね、その集団の営みの質の判断にしやすい。
君:わがままなやつらの、恋愛、では、ないわけ、ね。
私:そっ。営巣系のメスたちからするお誘い、じゃないし、オスのわがままな圧とも違う。この場合はそうじゃない方で想像してもらうしかない、かも。たとえれば、キミと・・・。
君:あなた、って言わせたいん、でしょお。
私:・・・。
君:答える代わりに、・・・お茶、しましょ。散歩して少し体をあたためて、でお茶、いかが?
私:なんて、うれしい、・・いいな、それって、いいよ。
君:なに、言ってんの、よ、もぐもぐ。・・さ、出ましょ。