連載は続く~SF掌編『事件にキミは”怒る”』編




事件は現場で生じる。・・・・むむっ、これは!
確かにそうだろう、だが・・・。
ヒトはまさに計画を使いこなしてきた、・・だからこその一面を否定し過ぎていないか。陰謀を否定したい気持ちが度を越して、・・そういう思考への方向付けが過度に働いていないか?
何事も、衝動的、思い付きの減少でしかなのだろうか?否!
陰謀、計画性は当然含む。ただ思いの通りにはことは運ばないのだ。

施設生活ではあるけれど、頻繁に外出して余生を送る探偵氏にとって、実に平穏な日々は続いているはず、だった。

そして或る日。
事件は起きた。

その日は偶然にも、部屋に閉じこもっていた。
決して陰気ではない方の雰囲気が醸しだされる、たとえば声が満ちていた。
なのに・・・。
コンコン、コンコン、コン。「いらっしゃいます?」
探偵氏は遠くかなたにかすかに感じ取れた音を頼りに記憶の渦の中から、もがき始めていた。ことばにもならない、ただ「ふぁーーー、い。はい」
「いらっしゃるのですね。少々、おじゃましてよろしいですか。」
「・・でぅおうぞ・・」。探偵氏のことば返ってくるかしないか、のうちに、このお客、せっかちそうで、部屋に入って来るや、
「うちの親が退所することになりまして、ご挨拶をと思いまして・・・」
探偵氏、寝具を身にまとったままの姿で寝台の脇に足をおろす格好。
「それはそれは、おめでとうございます」
「回復、したとかで、認知症・・もう戻れないとすっかり思い込んでいました。ところが、食事療法やなにかで、回復、しちゃうんですね。いや驚きました。」とこの人物、なぜか冴えない。
探偵氏、少しだけ誘いを掛けた。
「さぞ、認知症の頃にはご苦労されたのでしょうね?」
「・・・。そうなんです(と急に声を低めて話始めた)。治った、そうかもしれません、しかしね。大変だったから、施設への入所が決まって、どれだけ肩の荷が下りたか知れない。実際、入所後は、時々ここを訪れてことばを掛け合って、そんなことで済んでいました。けれども、認知症ではない親であっても、家ですることなくて、煩くする。それだけでも、家庭にとっては大変な負担になってしまうんです。これから先、一体どうしていこう、・・・そんなことを考えるだけでもう・・・・」
「お察しします。さぞご苦労なことでしょう」やはり事件は現場で起きてしまうのだろうか。計画通りには行きにくい。そんな感じを持った探偵氏の一日ではあった。

<ここでCM>
折角なのかつての名作の翻案を掌編らしく提供してみたい。
昨今、再びコードレス流行りではないですか。
かつてはたけしとさんまのコンビに流行女子アナのお一人が加わった、とてつもないコントに仕上がっていた。
今日お送りするのは、更に進化したコードレスバージョン。
”このCMの後10分間に限り、お勤め価格で提供させていただきます。”
”皆さんは毎日のお掃除でお困りではありませんか。折角掃除した後に汚れ、ほこり、が目につく。だけどこれ、このコード、邪魔、ですよね!そこでわが社が開発した、なんと!!コードレス携帯掃除機。ほんとうに、ほんとうに、お手軽に使えるんです。ほら、見てください、ココのところ。ねっ!無い!でしょ。コード。そうなんです。今はやりのコードレスに新しい製品が加わりました。コードレス携帯掃除機。軽くてとても持ち運びに便利です。しかも蓄電池仕様ではありません!うそ?とお思いでしょ。違うんです。普通の電源を使うから、万が一のイヤーなストレスともお別れです。いつでもどこでも強力なパワーを発揮する、このコードレス携帯タイプの掃除機、お値段は勉強に勉強さえていただき、なんと、1万、9千、8百円。19800円でご提供。このCMが終わって、10分の間にお電話ください。さて、折角ですから、実際に使ってみましょう。皆さん、ほら、ここ、ここをご覧ください。ちょこっとコンセント出てるでしょ。これをご家庭の電源につなぐだけ。ただそれだけでなんです。本体の端っこにオスのコンセントが出ている。ちょこっとね。それをご家庭のどこにでもあるコンセントにさすだけ。それだけで蓄電池のストレスからも解放される、超便利なコードレス掃除機をたったの19800円でご提供。さ、そろそろCM終わります。電話番号は・・・”
<ここまでCM>

「すいません、今何時?くらいでしょう」
と探偵氏は聞かれ、手元の電池式の小型目覚まし時計を手にすると、それが止まっていることに気付いた。電池切れだ。
「いやいいんです。帰りの事情がありまして、つい」
探偵氏、すかさず、テレヴィのリモコンを使おうとして、何度も大きなのを押すことに。で、それでもONにならない。
「どうされました。あの、つまらないものですが、これ召し上がってください」と手ごろな大きさの菓子折りのようなのを置いていった。
探偵氏、後ろ姿のお客へ何か話しておかないと、と強く思った。なにしろ、年寄りたちがただ家庭でとぐろをまいているような日々は、家族のだれにとっても不幸だ。そりゃそうだろう。自分で必要をみつけちゃあ、何かしらやって、目の前でじっとしてる、なんていうことは通常の家庭生活ではありえない。テレヴィが入って、ながら族が流行って、お菓子の類がそれを加速してきたかもしれないけれど、それは核家族の姿の一面の場合が多い。それならば、他に気に留めるだれかが居るわけではない。ところが、今では二組の老人夫婦が同居してるってことだってないわけじゃない。それくらいの時代だ。ただし、認知症についての知見は研鑽が積み重なっている今日この頃。とりわけコウノメソッド系の発信は参考にし易い。
もともと引きずっていた(日常生活を邪魔しないタイプの)発達障害がそのままで、認知症を発症して、或いは、発達障害の症状を認知症とカン違いして、ということにも気付かれだした。そこらは分けて対処が必要だ。発達障害ではない症状でも、ヒトのかたくなな個性が目の前で生きている状態、ってのはそれはそれはの世界だ。ここまで来ると年寄りとか年齢じゃない。同居していることの奇跡の方から接近してみる必要アリだ。
「こう見えても、趣味で探偵、やってるんですよ。もし、ご家庭でこの先お困りのことがあったら、是非、もう一度、私にお話し、聞かせてもらえませんか?」
「ありがとうございます。その際は、是非・・・。本当ですよ。こちらまで相談に伺う、退所後なのでできにくくなります。どのように連絡さしあげたら・・」
探偵氏、早速、手製の名刺をお客へ手渡した。
事件は計画通りに運ばなくて、現場で込み入ってはいるんだけどシンプルに起こりがち。そんな感じかな。




君:事件、起こったわよ、ね。起こって、る。起こるには・・・起こった・・でも、なんなの、よ。これ。
私:事件くん、でさえ、今は忙しいんだ。だから、進展、が、無い!
君」でしょぉ・・。そぉ、でしょ!・・もぉ・・・。なに、よぉ。
私:お昼だし・・・お茶とお昼、おごるから、許して・・・。
君:!・・、いいわ、よ。
私:早、早・・いぃ。(キミの後を追うワタシ)
君:あのCM、一体、なんなのよぉ!ばかばかしい。
私:コードレスものは、ほんと、発想の切り替えにうってつけだね。
君:なぁに感心してるんだか・・・。ふふっ。